リスクマネジメント・カーボンナノチューブ関連情報

カーボンナノチューブってどんな材料なの?

2019年6月28日

| カーボンナノチューブの構造

カーボンナノチューブ(CNT)は1991年に飯島澄男博士によって発見された炭素のみで構成されている直径がナノメートルサイズの円筒(チューブ)状の物質です。CNTは炭素原子が六角形に配置されたベンゼン環を平面上にすべて隣り合うように並べたシートを円筒状に丸めた構造をしています。この筒が1層のものが単層CNT、直径の異なる二本の筒が入れ子のように重なったものが二層CNT、さらに直径の異なる複数の筒が層状に重なったものが多層CNTです。

図1:単層カーボンナノチューブと二層カーボンナノチューブ

ナノメートルとはどのような大きさなのかというと、1メートル(m)の1/1000が1ミリメートル(mm)、1mmの1/1000が1マイクロメートル(㎛)で、1㎛のさらに1/1000が1ナノメートル(nm)です。つまり、1nmは10億分の1mということになります。

図2:ナノスケールとカーボンナノチューブ

クモが吐き出す糸は直径が約5㎛程度ですが、CNTの直径は数から100nm程度とクモの糸よりも遥かに小さいのです。これは、たとえば直径1nmで長さが1mmのCNTの場合、仮に直径を1mとすると、その長さは1000kmとなる計算です。これは産総研がある茨城県つくば市から、鹿児島県の桜島までの直線距離に相当します。このようにCNTは直径と長さに大きなギャップのある縦横比(これをアスペクト比といいます)の高い物質なのです。

 

| カーボンナノチューブの優れた特性

カーボンナノチューブ(CNT)は強固な化学結合によって形作られているため、化学的にも、熱的にもとても安定しています。CNTは密度がアルミニウムの半分程度と非常に軽いにもかかわらず、強度が鋼の約20倍になります。また、銅の1000倍以上という高い電流密度耐性があり、さらに銅よりも高い熱伝導性を備えています。

単層のCNTはシートの丸め方によって、電気を通す金属的な性質のものだけでなく半導体的な性質を持つものができます。単層CNTを作ると両者が混ざったものができるので、半導体的な性質のものだけを取り出し、半導体材料とすることができます。残念ながら現時点では単層CNTを半導体型と金属型に作り分ける技術は確立されていません。

 

| カーボンナノチューブのつくり方

カーボンナノチューブ(CNT)は主に次の3つの方法と、それらの方法を改良・発展させた方法で製造されています。

アーク放電法:溶接などに利用されるアーク放電という現象を利用する方法で、1990年にフラーレンの合成方法として開発された抵抗加熱法を発展させた製造方法です。炭素源となるグラファイトの棒の先端を軽く接触させた状態で高い電流をかけるとアーク放電が起き、グラファイト棒を2000℃以上で加熱することができます。このときグラファイト棒の陽極側からは炭素が蒸発してガラス容器の内側に煤として付着します。一方、陰極側に堆積した残りの炭素にはCNTが含まれています。結晶性が高く直径の細いCNTを比較的高純度で作製することができますが、生成効率が低く量産化にはあまり向いていません。

レーザー蒸発(レーザーアブレーション)法:1996年にアメリカのライス大学によって開発された方法です。炭素源には、鉄、コバルト、ニッケルなどの金属触媒を混ぜたグラファイト棒を使用します。電気炉に置いたグラファイト棒に強力なレーザーを照射して超高温(2000~3000℃)で加熱することで単層のCNTを生成できます。結晶性が高くて欠陥のない高品質のCNTを作製することができます。しかし一度に生成できる量が限られており、大量合成に向いていません。

化学気相成長(CVD)法:様々な物質で薄膜を形成する手法の一つです。CVD法で用いられる炭素源はガスで、容器内に流した炭化水素ガスなどを触媒で反応させてCNTを生成します。CVD法は触媒の導入方法が異なる二つの手法が主流となっています。触媒を基板に付着させ、そのまま基板上で化学反応を起こさせてCNTを成長させる担持触媒法と、基板を用いず、触媒を容器に満たしたガスの中に浮遊・流動させて、その状態で化学反応させてCNTを成長させる気相流動法です。CVD法は炭素源となるガスを容器内に供給し続けることで、CNTを連続的に生成することが可能です。高純度のCNTを効率よく合成できる量産に適した手法です。

 

| カーボンナノチューブの優れた特性を引き出す方法

分離:現時点では金属型または半導体型のいずれかの型の単層カーボンナノチューブ(CNT)だけを選択して生成する技術は確立されていません。しかし、両方の型が混在したままでは用途が限られるため、生成後に両者を分離する必要があります。アガロースゲルを用いたカラムクロマトグラフィ法というCNTの分離の収率や純度を高い精度で制御することができる方法が産総研で開発されています。

分散:細くて長い形をした物質は絡まりやすいため、アスペクト比の大きいCNTほど絡まりやすくなります。また、CNTは細い繊維が絡まり合った状態(凝集状態)で生成されます。しかし、絡み合ったままのCNTは均一な濃度で素材に混ぜたり塗ったりすることができないため、そのままではCNTの特性を十分に引き出すことはできません。そこで合成されたCNTを上手くばらばらにする必要がありますが、絡まりやすいCNTの分散は一般的な顔料に比べると格段に難しく、研究開発が熱心に行われている段階です。

 

| カーボンナノチューブの用途と製品

カーボンナノチューブ(CNT)はナノテクノロジーの基盤となる素材として今後の産業に大きな影響を与えることが期待されています。既存の工業材料とCNTを組み合わせてより優れた機能を備えた新素材を創り出す試みが盛んに行われています。導電性・熱伝導性・耐熱性を備えたゴムとの複合材料や、軽量で高強度な炭素繊維強化プラスチック(CFRP)との複合材料、許容電流が金属以上になる金属との複合材料など、実用化に向けて研究が進められています。多層CNTは2005年には日本で工業生産が開始されています。一方、量産技術の開発が足枷となっていた単層CNTも2004年にCVD法の一種スーパーグロース法が産総研で開発され、ようやく量産化が可能になりました。2015年には日本ゼオンがスーパーグロース法を基にした単層CNTの量産を開始しています。

CNTに期待されている用途は、燃料電池やキャパシタ等の電池、配線材料、半導体デバイス、薄膜、医療用材料、自動車・航空機等、建築材料など多岐にわたります。すでにテニスラケットや自転車のフレームなどスポーツ用品、スピーカーやヘッドフォンの振動板、電線など、製品への応用も始められています。

 

| カーボンナノチューブの安全性

カーボンナノチューブ(CNT)は、新しい技術を用いたこれまでにない材料です。このような新規な素材を安心して使用するためには、その素材の私たちの健康や環境へのリスクについてきちんと知る必要があります。CNTのような化学物質のリスクは、その化学物質の危険・有害性(ハザード)の程度や環境への影響の大きさと、その物質へのヒトのばく露量や環境中の濃度をかけ合わせて導き出されます。

図3:ハザードとリスクの関係

ハザードの程度とばく露量を検討し、その化学物質が健康や環境へ影響を及ぼす可能性について総合的に判断するリスク評価を行います。CNTは呼吸器、口、皮膚を経由して体内に取り込まれる可能性が考えられます。とりわけCNTの製造・加工プロセスで作業場の空気中に浮遊する材料を吸い込むことで、肺や気管支などの呼吸器系へ影響があるのではないかと懸念され、多くの研究がなされています。日本では動物試験の結果や文献調査などによって導き出されたハザードやばく露量に基づいてCNTのリスク評価が実施され、CNTを取り扱う際に事業者が参照することが可能な作業環境中の許容濃度が提案されています。さらに厚生労働省からは予防的な考え方に基づくばく露防止のための具体的な方法が指針として示されています。また、ナノマテリアルを安全に取り扱うためのツールとなる国際規格、データベース、ガイドライン、試験方法などが、様々な国や国際機関から公開されています。

 

| 参考文献

[1]カーボンナノチューブのすべて、(国研)新エネルギー・産業技術総合開発機構編、日刊工業新聞、2016.12

[2]スーパーグロース単層カーボンナノチューブ(SG-単層CNT)安全性データおよびTASC自主安全管理の紹介、(国研)産業技術総合研究所監修、2016.4

[3] TSC Foresight 技術戦略研究レポート、(国研)新エネルギー・産業技術総合開発機構、2015.10