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超高温・超低温粘弾性体
-196°Cから1000°Cまでゴムのような粘弾性を持つCNT材料
粘弾性材料とは、「粘性(力を加えられると変形し、その力を取り除いても変形したままである性質)」と「弾性(力を加えられると変形するが、力を取り除くと元の形に戻る性質)」の両方を示す材料のことです。例としてゴム・プラスチック・タンパク質などの高分子素材があげられます。
粘弾性材料は、主に衝撃吸収や振動低減の目的で、靴底・寝具などの日常生活用品から車両の防振・産業用振動絶縁装置・建物の免震装置まで、幅広く利用されています。しかし、ゴムなどの高分子素材は、温度によって性質が変わってしまいます。最も温度変化に対して安定なシリコンゴムでも低温(約-55°C)では硬化し、高温(約300°C)では分解するため、粘弾性体としては使えなくなってしまいます。また繰り返し応力を受けるとエネルギーを吸収する性能は劣化し、やがては破断してしまいます。
当チームでは、超長尺・高純度のスーパーグロースCNTのマイクロ構造を制御する研究の中で、アルゴンイオンによる反応性イオンエッチング法で触媒を調製することにより、CNTが縦横に絡み合ったネットワーク状の構造体の合成に成功し(図1)、その粘弾性について詳細に研究しました。
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| 図1:CNT粘弾性体合成法模式図。(1)スパッタリングによりシリコン基板上に鉄触媒をつける(2)アルゴンイオンによる反応性イオンエッチングによって触媒を調製する(3)スーパーグロース法によってCNTを合成し、出来上がったCNT構造体を圧縮して密度を4倍(0.036 g/cm3)にする |
その結果、この新しいCNT構造体(以下、CNT粘弾性体)は、
- -196〜1000°Cの温度範囲でゴムのような粘弾性を示す
- -140〜600°Cで、0.1〜100ヘルツの振動数範囲では、周波数に依存しない安定した粘弾性を示す
- 100ヘルツで1%のねじり歪みを100万回加えた後も、劣化や破断がない
ということが分かりました。
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| 図2:カーボンナノチューブ粘弾性体を使った除振試験装置。液体窒素で冷却した場合も、バーナーで加熱した場合も除振機能を保つ |
CNT粘弾性体に鉄球を落とし、衝突痕の形状をレーザー顕微鏡で測定したところ、-196°C、25°C、1000°Cで形状の変化がありませんでした。これは広い温度範囲で粘弾性を示すことをあらわしています。
次に、粘弾性体としての性質を定量的に評価するため、動的粘弾性測定(DMA)法によって貯蔵弾性率、損失弾性率、損失正接を測定しました。測定装置の温度限界のため、-140°Cから600 °Cまでしか測定できませんでしたが、この温度範囲で粘弾性に変化はありませんでした(図3)。また、25°Cで測定した応力・ひずみ曲線によって囲まれた面積はシリコンゴムよりも広く、より多くのエネルギーを吸収できるということがわかりました。
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| 図3:DMA法によって測定したCNT粘弾性体とシリコンゴムの損失弾性率、貯蔵弾性率、損失正接の温度依存性 |
-140°Cから600°Cまでの温度範囲で、振動数0.1 Hzから100 Hzまでの周波数依存性を測定したところ、温度にも周波数にも依存しない粘弾性が確認できました。また、可逆的変形の臨界点である臨界ひずみは-140°Cから600°Cまで温度によらず5 %、室温での破断ひずみは約100 %でした。さらに-140°C、25°C、600°Cで、このCNT粘弾性体に1 %の捻りひずみを繰り返し100万回加える耐久性試験を行った結果、各温度で耐久試験後も貯蔵弾性率、損失弾性率、損失正接に変化がなかったことが確認できました(図4)。
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| 図4:CNT粘弾性体100万回捻り歪み試験の結果(25°C) |
このCNT粘弾性体が広い範囲で温度や周波数に依存しない粘弾性を示し、疲労耐性が強い原因は、長いCNTが絡み合い、ゴムなどとは異なるスカスカのネットワーク構造を作っていることにあります。
ひずみのエネルギーは、主にネットワーク構造内のCNT同士の交差部分が、マジックテープのように、くっついた状態から引きはがされた状態に変化するときに吸収されると考えられます。吸収されたひずみは熱エネルギーに変換され、それが粘弾性体の中に蓄積されると性能が劣化する原因となりますが、密度が低いスカスカの構造で、熱伝導率もよいCNT粘弾性体の場合は効率よく放熱されるため、安定した粘弾性を保つことができるのです。
CNT粘弾性体は、将来、超低温や高温の環境下で、衝撃や振動などのエネルギーを吸収できる非常に軽量な粘弾性材料として利用できる可能性があります。今後、試料の提供などを通じて、企業と協力し、用途開発につなげたいと考えています。
なお、この研究は、経済産業省産業技術環境局の委託事業である「低炭素社会を実現する超軽量・高強度融合材料プロジェクト」の一環として行われました。
参考:Ming Xu et al., "Carbon Nanotubes with Temperature Invariant Viscoelasticity from -196°C to 1000°C", Science, 330 (6009), 1364-1368 (2010)


